高齢者の体操や運動で歩く力は保てる?

高齢者の体操や運動で歩く力は保てる?
読了目安 6〜8分最終更新日 2026.11.06
答え効く

運動で、歩く速さは速くなります。効果は小さめです。

根拠

高齢者の筋トレの試験24件・1179人のまとめで、歩く速さが平均0.08m/秒速くなりました [1]。地域で暮らす健康な高齢者の103研究・5114人でも [2]、虚弱な高齢者の28件・4857人でも [3]、運動で歩く速さが改善しました。根拠の確かさは中程度です。ただし指導者なしで自宅で行う筋トレでは、歩く速さに差がありませんでした [4]。

この答えの範囲

運動をしない人と比べて、歩く速さがどう変わったかの話です。数年かけて歩く力を保てるかを直接調べた結果ではありません。転倒の減り方は運動の種類で分かれます。

じゃあ、どうする?

筋トレに、バランスや歩く練習を組み合わせた運動を、指導を受けながら続けるのが研究の条件に近い形です。自宅で一人で行うだけの筋トレや、転倒予防を目的にしたアプリ・ヨガは、結果が分かれています。持病や痛みがある人は、始める前に医師や理学療法士に相談を。筋トレそのものは 筋トレで高齢になっても筋力は戻る? で。

この記事は、成分や方法について公開されている研究を整理したものです。特定の商品の効果を評価したものではなく、個別の診断・治療の助言でもありません。

根拠の確かさ

エビデンス強度研究の種類・数・結果のそろい方から、根拠の確かさを「高い・中程度・低い・限定的」の4段階で示します。中程度
根拠の論文判定に使った論文の数です。まとめ論文 (多くの試験を集めたもの) も 1 本と数えます。16 本
研究間の一致研究どうしの結果が、同じ方向にそろっているかを示します。一部で結果が異なる
判定の内訳を見る(スコア 84 / 100)
項目点配点何を見るか
研究デザイン4040いちばん信頼できる研究の種類
研究の量19.320研究件数と参加人数
一致度16.925結果の向きがそろっているか
新しさ1010最新の研究が何年以内か
精度55信頼区間が「差なし」をまたがないか

合計 91.2 点を、エビデンス強度 B の範囲(55〜84 点)に収めて、スコアは 84 点です。 判定に使った研究は、RCT のメタ解析 5 本。

配点の決まりは 評価方法について に公開しています。計算はプログラムが行い、広告や商品のデータは使いません。

高齢者の体操・運動とは

高齢者の体操・運動は、筋トレ、バランスや歩く練習、太極拳、これらを組み合わせた複合運動などの総称です。足腰の筋力や体を動かす力を保つとされ、教室で行うものから自宅で一人で行うものまであります。注意点は、運動の種類と進め方で結果が変わることです。

目次
  1. 01研究でわかったこと
  2. 02注意点
  3. 03まとめ
  4. 04よくある質問
  5. 05参照した論文

01研究でわかったこと

歩く速さは速くなるのか

答えの中心は、アメリカのインディアナ大学インディアナポリス校などの研究チームが2009年に発表した Cochrane のレビューです [1]。Cochrane のレビューとは、決めた手順で試験を集めて結果をまとめる方法です。6700人分の試験が集められ、そのうち歩く速さは24件・1179人で比べられました。

研究の種類ランダム化比較試験のまとめ (Cochrane のレビュー)
対象高齢者 (歩く速さは24件・1179人)
比べたものだんだん負荷を上げる筋トレ と 筋トレをしない場合
結果歩く速さが平均0.08m/秒速くなった
まとめて分析した結果筋トレで、歩く速さが平均0.08m/秒速くなりました [1]。

いすからの立ち上がりも改善し、多くの試験で筋トレは高い強度で行われ、重い副作用はまれでした。

0.08m/秒は、速さでいえば小さな差です。「歩く速さがぐんと上がる」ではなく、「少しずつ、確かに上がる」と読むのが正確です。

何を検証したか

  • バランスと歩行の練習・太極拳などの心身の運動・組み合わせた運動: 地域で暮らす健康な高齢者の103研究・5114人で、歩く速さが改善しました [2]。
  • 筋トレ・バランスなどの複合運動: 虚弱な高齢者の28件・4857人で、歩く速さが改善しました。効果の大きさは小さめで、期間は12週間が最もよいとされました [3]。
  • 日常の動作をまねた機能的な運動: 歩く速さや歩幅、バランスが改善しました [5]。
  • サルコペニア (筋肉が落ちた状態) の高齢者の運動: 脚の筋力と歩く速さが改善しましたが、筋肉の量は増えませんでした [6]。

効かない条件もある

  • 指導者なしで自宅で行う筋トレ: 21研究・4053人で、脚の筋力は少し上がりましたが、歩く速さには改善がありませんでした。続けられた割合は平均67%でした [4]。
  • 地域で暮らす虚弱な高齢者の複合運動: 19研究で、筋力やバランスは改善しましたが、歩く速さには差がありませんでした。立って歩いて戻るテストの時間は短くなりました [7]。
  • 虚弱・虚弱の手前の人の筋トレだけ: 立ち上がりなどは改善しましたが、ふだんの歩く速さは改善しませんでした [8]。

同じ虚弱な高齢者でも、集めた研究の範囲や測り方で歩く速さの結果が分かれています。このため、運動の種類、指導の有無、測り方によって結果が変わるのが実際のところです。

転倒は、運動の種類で結果が分かれる

地域で暮らす高齢者12,981人・59研究を集めた Cochrane のレビュー (オーストラリアのシドニー大学の研究チーム、2019年) では、運動で転ぶ回数が23%減りました。根拠の確実性は高いと評価されています [9]。転んだ人の割合も15%減り、効いていたのは主にバランスと日常動作の運動でした。

一方、個別の試験では結果が分かれます。

  • アプリで自宅のバランス運動をした70歳以上の503人: 最初の12か月は転ぶ回数に有意な差がありませんでした。24か月では16%少なくなりました [10]。
  • アプリの自宅運動を1年行った1628人: 転ぶ回数に有意な差はなく、1回以上転んだ人の割合は11%少なくなりました。週の目標を守れた人は1割ほどでした [11]。
  • 教室と自宅の運動を組み合わせた18試験・5960人: けがをする転倒は減りましたが、転ぶ回数全体には有意な差がありませんでした [12]。
  • ヨガ (アイアンガーヨガ) の運動を12か月した60歳以上の700人: 座ってするリラックスのヨガの群より、転ぶ回数がかえって多くなりました [13]。
  • フィンランドの高齢女性914人: 指導付きのジムと太極拳の教室で、転ぶ回数が14.3%減りました [14]。

つまり、転倒は「運動なら何でも防げる」わけではありません。歩く速さが上がることと、転ぶ回数が減ることは別の結果として見る必要があります。

よく言われていることは本当?

  • 足腰の筋力をつけて歩く力を保つ効きます。 筋トレで歩く速さが平均0.08m/秒速くなりました。ただし自宅で一人の筋トレでは差がありません [1] [4]。
  • バランス能力を鍛えて転倒を防ぐ条件によります。 バランスと日常動作の運動では転ぶ回数が減りましたが、アプリでの一人運動や一部のヨガでは減りませんでした [9] [10] [13]。
  • 寝たきり・要介護を防ぐ寝たきりや要介護そのものは調べていませんが、歩けなくなるのを防ぐ点では効きます。 体の働きが落ち始めた70歳以上の1635人の試験では、運動を続けた群は400mを歩けなくなる人が少なくなりました (30.1%対35.5%) [15]。虚弱とサルコペニアのある1205人の試験でも、運動に栄養指導を組み合わせた群で少なくなりました (46.8%対52.7%) [16]。
  • ストレッチで体をやわらかくし、転倒を防ぐ研究が足りません。 柔軟体操だけを対照と比べた転倒予防の試験は、Cochrane のレビューに入っていません [9]。
  • 週2回ほど続けると効果的研究が足りません。 回数だけを比べた研究は集めていません。

ほかの研究では、結果が異なる場合も

運動の効果は、対象や進め方で結果が割れます。

差がなかった試験のまとめ自宅で指導者なしの筋トレをした地域の高齢者 4053人 (21研究)

脚の筋力は上がりましたが、歩く速さ・立って歩いて戻るテスト・立つ歩く総合点は改善しませんでした。

02注意点

研究の対象は60歳以上の高齢者が中心で、地域で暮らす人と虚弱な人が含まれます。筋トレの試験は高い強度で行われ、重い副作用はまれでした [1]。体の働きが落ち始めた人のプログラムでも、重い有害事象の割合は運動の群と健康教育の群で差がありませんでした [15]。持病や痛みがある人、転びやすい人は、始める前に医師や理学療法士に確認してください。

指導のない運動は、歩く速さに効きにくい

自宅で一人で行うときは、教室や専門家の指導を併用することを考えてください。

03まとめ

運動で歩く速さは速くなります。効果は小さめですが、地域で暮らす人にも虚弱な人にも出ています。
指導者なしの自宅の筋トレや、転倒を減らす目的の一部の運動では、結果が分かれます。
指導を受けながら、筋トレとバランス運動を組み合わせて続けましょう。

04よくある質問

Q体操だけで転ばなくなりますか?

運動全体では転ぶ回数が23%減りましたが、効いていたのは主にバランスと日常動作の運動です [[30703272]]。アプリでの一人運動や一部のヨガでは、はっきり減りませんでした。

Qストレッチだけでも歩く力は保てますか?

ストレッチだけを調べた研究は、今回の結果には入っていません。研究では確かめられていません。

Q虚弱な人でも効きますか?

虚弱な高齢者の28件・4857人では、複合運動で歩く速さが改善しました [[39426607]]。地域で暮らす虚弱な人の19研究では差がなく、結果は割れています [[38908349]]。

Q寝たきりは防げますか?

寝たきりそのものは調べていませんが、400mを歩けなくなる人は、運動を続けた群で少なくなりました。体の働きが落ち始めた70歳以上の試験で30.1%対35.5% [[24866862]]、虚弱な人に運動と栄養指導を組み合わせた試験で46.8%対52.7%でした [[35545258]]。

05参照した論文

判定に使った主な論文(16本)

[1]高齢者の身体機能を高める漸進的筋力トレーニング

発表年
2009年
研究機関
アメリカ・インディアナ大学インディアナポリス校
掲載誌
The Cochrane database of systematic reviews
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
1,179人
結果の向き
良い方向

高齢者の筋トレの試験24件・1179人で、歩く速さが平均0.08m/秒速くなった。

[2]健康な高齢者のバランス能力への運動の種類別の効果

発表年
2025年
研究機関
中国・Zhang Sほかの研究チーム
掲載誌
BMC geriatrics
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
5,114人
結果の向き
良い方向

健康な高齢者5114人(103研究)で、運動は歩く速さとバランスのテストの成績を改善した。

[3]虚弱な高齢者の虚弱の状態と身体機能への複合運動の効果

発表年
2024年
研究機関
中国・Yang Xほかの研究チーム
掲載誌
Experimental gerontology
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
4,857人
結果の向き
良い方向

虚弱な高齢者4857人(RCT28件)で、複合運動により歩く速さが改善した。効果は小さめ。

[4]地域で暮らす高齢者の指導者なしの自宅筋トレ

発表年
2021年
研究機関
スペイン・カスティーリャ・ラ・マンチャ大学
掲載誌
Ageing research reviews
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
4,053人
結果の向き
差なし

自宅で指導者なしの筋トレ(21研究・4053人)では、脚の筋力は少し上がったが歩く速さは改善しなかった。

[5]60歳以上への機能的運動プログラムの身体機能への効果

発表年
2024年
研究機関
イラン・Niyazi Aほかの研究チーム
掲載誌
Geriatric nursing (New York, N.Y.)
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
—
結果の向き
良い方向

日常の動作をまねた機能的な運動で、歩く速さや歩幅、バランスが改善した。

[6]サルコペニアの高齢者に役立つ運動のメタ解析

発表年
2023年
研究機関
韓国・Song Sほかの研究チーム
掲載誌
Journal of functional morphology and kinesiology
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
—
結果の向き
良い方向

サルコペニアの高齢者で、運動により脚の筋力と歩く速さが改善した。筋肉の量は増えなかった。

[7]地域で暮らす虚弱な高齢者への複合運動の効果

発表年
2024年
研究機関
中国・Wang Hほかの研究チーム
掲載誌
Archives of gerontology and geriatrics
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
研究19件を統合
結果の向き
差なし

地域で暮らす虚弱な高齢者(19研究)で、筋力やバランスは改善したが、歩く速さには差がなかった。

[8]虚弱な高齢者の筋トレの量と機能の関係

発表年
2023年
研究機関
ブラジル・ブラジリア大学
掲載誌
Ageing research reviews
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
—
結果の向き
差なし

虚弱・虚弱の手前の高齢者で、筋トレだけではふだんの歩く速さは改善しなかった。

[9]地域で暮らす高齢者の転倒を防ぐ運動

発表年
2019年
研究機関
オーストラリア・シドニー大学
掲載誌
The Cochrane database of systematic reviews
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
12,981人
結果の向き
良い方向

高齢者12,981人(59研究)で、運動により転ぶ回数が23%減った。確実性は高い。

[10]アプリで行うバランス運動による転倒予防の2年間の試験

発表年
2021年
研究機関
オーストラリア・ニューロサイエンス・リサーチ・オーストラリア
掲載誌
BMJ (Clinical research ed.)
研究の種類
ランダム化比較試験参加者をくじ引きのように分け、条件の違いによる結果を比べる試験。
対象
503人
結果の向き
差なし

アプリでバランス運動をした503人は、最初の12か月で転ぶ回数に有意な差がなかった。

[11]デジタル運動プログラムによる転倒予防の無作為化試験

発表年
2025年
研究機関
スウェーデン・ウメオ大学
掲載誌
Journal of medical Internet research
研究の種類
ランダム化比較試験参加者をくじ引きのように分け、条件の違いによる結果を比べる試験。
対象
1,628人
結果の向き
結果が割れている

アプリの自宅運動(1628人)は、転ぶ回数を有意には減らさなかったが、転んだ人の割合は11%少なかった。

[12]転びやすい高齢者への教室と自宅の運動の組み合わせ

発表年
2020年
研究機関
オーストラリア・クイーンズランド大学
掲載誌
Physiotherapy research international : the journal for researchers and clinicians in physical therapy
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
5,960人
結果の向き
差なし

18試験・5960人で、けがをする転倒は減ったが、転ぶ回数全体には有意な差がなかった。

[13]アイアンガーヨガと座ってするヨガの転倒への効果の比較

発表年
2025年
研究機関
オーストラリア・シドニー地域保健区
掲載誌
The lancet. Healthy longevity
研究の種類
ランダム化比較試験参加者をくじ引きのように分け、条件の違いによる結果を比べる試験。
対象
700人
結果の向き
悪い方向

60歳以上の700人で、ヨガの運動をした群は、座ってするヨガの群より転ぶ回数がかえって多かった。

[14]高齢女性914人の転倒予防運動の2年間の試験

発表年
2023年
研究機関
フィンランド・東フィンランド大学
掲載誌
Age and ageing
研究の種類
ランダム化比較試験参加者をくじ引きのように分け、条件の違いによる結果を比べる試験。
対象
914人
結果の向き
良い方向

高齢女性914人で、指導付きのジムと太極拳の教室により転ぶ回数が14.3%減った。

[15]体を動かす習慣が重い歩行障害を防ぐ効果(LIFE試験)

発表年
2014年
研究機関
アメリカ・フロリダ大学
掲載誌
JAMA
研究の種類
ランダム化比較試験参加者をくじ引きのように分け、条件の違いによる結果を比べる試験。
対象
1,635人
結果の向き
良い方向

運動を続けた群は、健康教育の群より400mを歩けなくなる人が少なかった(30.1%対35.5%)。

[16]虚弱な高齢者の歩行障害を防ぐ複合的な介入(SPRINTT)

発表年
2022年
研究機関
イタリア・ジェメッリ大学病院
掲載誌
BMJ (Clinical research ed.)
研究の種類
ランダム化比較試験参加者をくじ引きのように分け、条件の違いによる結果を比べる試験。
対象
1,205人
結果の向き
良い方向

フレイルとサルコペニアのある1205人で、運動と栄養指導により400mを歩けなくなる人が少なかった(46.8%対52.7%)。

ほかに参考にした論文(7本)

判定「効く」は、公開している評価方法に沿ってプログラムが算出しています。