口腔ケアで高齢者の誤嚥性肺炎は減らせる?

口腔ケアで高齢者の誤嚥性肺炎は減らせる?
読了目安 4〜6分最終更新日 2026.11.06
答え効かない

肺炎による死亡は減ります。肺炎にかかる人が減るかは、確認されていません。

根拠

介護施設などの入所者5018人(比較試験5件)を調べたコクランのレビューでは、専門的な口腔ケアとふだんのケアで、肺炎にかかる割合の差があるとは言えませんでした [1]。一方、肺炎で亡くなる人は、2件454人の統合でリスク比0.43と少なくなりました [1]。根拠の確かさは低めです。研究の作りに弱さがあるためです。

この答えの範囲

介護施設の高齢者の研究が中心です。比べた相手はふだんのケアで、口腔ケアなしではありません。入院患者の研究は高齢者に限りません。

じゃあ、どうする?

毎食後の歯みがき、毎日の入れ歯の清掃、毎週の専門的なケアの組み合わせが、レビューで最もよい方法とされました [2]。家族の口腔ケアは、肺炎で亡くなるリスクを下げる行動として続ける価値があります。むせる、熱が出るなどがあれば、医師や歯科医師に相談を。

この記事は、成分や方法について公開されている研究を整理したものです。特定の商品の効果を評価したものではなく、個別の診断・治療の助言でもありません。

根拠の確かさ

エビデンス強度研究の種類・数・結果のそろい方から、根拠の確かさを「高い・中程度・低い・限定的」の4段階で示します。低い
根拠の論文判定に使った論文の数です。まとめ論文 (多くの試験を集めたもの) も 1 本と数えます。9 本
研究間の一致研究どうしの結果が、同じ方向にそろっているかを示します。一部で結果が異なる
判定の内訳を見る(スコア 64 / 100)
項目点配点何を見るか
研究デザイン4040いちばん信頼できる研究の種類
研究の量18.120研究件数と参加人数
一致度15.525結果の向きがそろっているか
新しさ1010最新の研究が何年以内か
精度25信頼区間が「差なし」をまたがないか

合計 85.6 点を、エビデンス強度 C の範囲(30〜64 点)に収めて、スコアは 64 点です。 判定に使った研究は、ランダム化比較試験 1 本・RCT のメタ解析 5 本。 論文の著者自身による確実性の評価は「低い」で、これを強度の上限にしています。 この上限により、強度を B から C に下げました。

配点の決まりは 評価方法について に公開しています。計算はプログラムが行い、広告や商品のデータは使いません。

口腔ケアとは

口腔ケアは、歯みがきや入れ歯の清掃で、口の中を清潔に保つことです。歯科医師や歯科衛生士が行う専門的なケアもあります。誤嚥性肺炎は、唾液や食べ物、口の中の細菌が気管に入って起きる肺炎です。口の中の細菌を減らせば防げると期待され、介護の現場で広く行われています。

目次
  1. 01研究でわかったこと
  2. 02注意点
  3. 03まとめ
  4. 04よくある質問
  5. 05参照した論文

01研究でわかったこと

答えの中心は、中国の四川大学などの研究チームが2022年に発表したコクランのレビューです [1]。コクランのレビューは、決めた手順で研究を集め、結果をまとめる方法です。専門的な口腔ケアとふだんの口腔ケアを比べた比較試験6件・6244人が集められ、肺炎の発生を比べた5件・5018人が主な分析の対象です。3件は日本の研究でした。

研究の種類介護施設の口腔ケアを調べた比較試験のレビュー(コクラン)
対象介護施設などの入所者(5件・5018人)
比べたもの専門的な口腔ケアと、ふだんの(本人が行う簡単な)口腔ケア
結果肺炎にかかる割合の差があるとは言えなかった
コクランのレビューの結果専門的な口腔ケアで、肺炎にかかる人が減るとは言えませんでした [1]。

集められた研究はすべて偏りのリスクが高く、口腔ケアをしない群と比べた研究はありませんでした。

ここで分かったのは「ふだんのケアに加えて専門的なケアをしても、肺炎の発生に差があるとは言えない」ことです。「口腔ケアをまったくしなくてよい」という意味ではありません。一方、肺炎で亡くなる人は、2件・454人の統合で、24か月の間にリスク比0.43と少なくなりました [1]。根拠の確かさは低めです。対象が2件だけで、人数も少ないためです。

よく言われていることは本当?

  • 口腔ケアで誤嚥性肺炎になる人が減る確認されていません。 介護施設の研究を中心にしたレビューでは、差があるとは言えませんでした [1]。一方、人工呼吸器を使っていない入院患者と入所者の比較試験4件の統合では、リスク比0.61と低い結果でした [3]。結果は割れています。
  • 歯科医師・歯科衛生士による専門的なケアが特に効く肺炎にかかる人の割合では、確認されていません。 歯科の専門職が関わったケアの小集団では、リスク比0.65と肺炎が減っていました [4]。ただしコクランのレビューでは、ふだんのケアとの差があるとは言えませんでした [1]。
  • 口腔ケアで肺炎による死亡が減る減ります。 前の見出しの結果のとおり、リスク比0.43です [1]。根拠の確かさは低めです。
  • 口の刺激で、せきの反射がよくなる効きます。 日本の介護施設の高齢者59人を、介護者が毎食後に口腔ケアをする群と自分でケアする群に分けた試験で、1か月後にせきの反射がよくなった人が多くなりました(オッズ比5.3)[5]。根拠の確かさは低めです。試験が1件だけのためです。

ほかの研究では、結果が異なる場合も

コクランのレビューに含まれる日本の介護施設11か所の試験では、毎食後の歯みがきと毎週の専門的なケアをした人で、肺炎と肺炎による死亡が少なくなっていました [6]。介護施設で歯科衛生士が行う専門的なケアについて、肺炎・誤嚥性肺炎を防ぐ効果があると結論した2023年の系統的レビューもあります [7]。

一方、別の研究(2513人)では18か月の時点で肺炎による死亡に差があるとは言えませんでした。原因を問わない死亡全体も、3件の研究で差があるとは言えませんでした [1]。つまり、肺炎による死亡が減るかは研究で分かれ、死亡全体が減るとは言えません。

入院患者の研究も、結果が分かれています。ただし対象は入院中の成人で、高齢者に限りません。

入院患者を調べた試験入院中の成人を対象にした15件・10742人のレビューでは、人工呼吸器を使っていない人で、毎日の歯みがきで肺炎がはっきり減るとは言えませんでした(リスク比0.32、幅が広い)[8]。

オーストラリアの3病院・8870人の試験では、口腔ケアを強化した病棟で、人工呼吸器を使っていない人の院内肺炎が減っていました(ハザード比0.40)[9]。

結果が割れる理由は、まだ分かっていません。研究ごとに、対象者、比べたケアの内容、研究の質が違うことが一因と考えられます。

02注意点

日本の介護施設11か所の試験では、看護師や介護者が毎食後に歯ブラシで歯を清掃し、歯科医師・歯科衛生士が毎週、専門的なケアを行いました [6]。この量のケアを家族だけで続けるのは大変なので、施設の職員や訪問歯科に相談する方法があります。集めた研究の要旨からは、口腔ケアの副作用の数字は確認できていません。持病がある人、飲み込みに不安がある人は、医師や歯科医師に確認してください。

この記事は口腔ケアだけの話です

食事の形や姿勢の工夫など、誤嚥を防ぐほかの方法の効果は、ここでは扱っていません。

03まとめ

口腔ケアで、肺炎で亡くなるリスクは下がります。
肺炎にかかる人が減るかは、研究ではまだ確認されていません。
毎食後の歯みがきと入れ歯の清掃は続けつつ、専門的なケアは歯科に相談しましょう。

04よくある質問

Q口腔ケアで誤嚥性肺炎が約4割減るって本当?

研究によって違います。比較試験4件の統合ではリスク比0.61でした [[25857604]]。ただしコクランのレビューでは差があるとは言えず [[36383760]]、決まった数字は言えません。

Q入れ歯の清掃も必要ですか?

毎食後の歯みがき、毎日の入れ歯の清掃、毎週の専門的なケアの組み合わせが最もよい方法と思われる、とレビューは結論しています [[22390255]]。

Q電動歯ブラシを使えば肺炎を防げますか?

電動歯ブラシで肺炎が減るかを調べた研究は、今回集めた中にはありません。歯への効果は[電動歯ブラシは手みがきより歯にいい?](/evidence/electric-toothbrush)で扱っています。

Q口腔ケアをしないほうが安全な場合はありますか?

研究では確かめられていません。飲み込みに不安がある人は、やり方を医師や歯科医師に確認してください。

05参照した論文

判定に使った主な論文(9本)

[1]介護施設で起きる肺炎を防ぐ口腔ケアのコクランレビュー

発表年
2022年
研究機関
中国・四川大学
掲載誌
The Cochrane database of systematic reviews
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
5,018人
結果の向き
差なし

介護施設の入所者5018人で、専門的な口腔ケアとふだんのケアの間に、肺炎にかかる割合の差があるとは言えなかった。

[2]弱った高齢者の口腔ケアと誤嚥性肺炎の系統的レビュー

発表年
2013年
研究機関
オランダ・フランドル・オランダ高齢者口腔研究グループ
掲載誌
Gerodontology
研究の種類
システマティックレビュー関連する研究を決まった方法で集め、結果を整理した研究。
対象
—
結果の向き
良い方向

毎食後の歯みがき、毎日の入れ歯の清掃、毎週の専門的なケアの組み合わせが最もよいと結論していた。

[3]人工呼吸器を使わない人の院内肺炎と口腔ケアのメタ解析

発表年
2015年
研究機関
アメリカ・ボストン大学
掲載誌
Infection control and hospital epidemiology
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
1,009人
結果の向き
良い方向

比較試験4件の統合で、口腔ケアをした人は肺炎にかかるリスクが低かった(リスク比0.61)。

[4]人工呼吸器を使わない人の肺炎予防としての口腔ケア強化のメタ解析

発表年
2020年
研究機関
アメリカ・ハーバード大学医学大学院
掲載誌
British dental journal
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
3,891人
結果の向き
差なし

比較試験6件・3891人の統合で、口腔ケアの強化で肺炎が減るとははっきり言えなかった(リスク比0.89)。

[5]介護施設の高齢者の毎日の口腔ケアとせきの反射

発表年
2004年
研究機関
日本・東北大学
掲載誌
Chest
研究の種類
ランダム化比較試験参加者をくじ引きのように分け、条件の違いによる結果を比べる試験。
対象
59人
結果の向き
良い方向

59人で、介護者が毎食後に口腔ケアをした群はせきの反射がよくなった人が多かった(オッズ比5.3)。

[6]介護施設の高齢者で口腔ケアは肺炎を減らす

発表年
2002年
研究機関
日本・東北大学
掲載誌
Journal of the American Geriatrics Society
研究の種類
ランダム化比較試験参加者をくじ引きのように分け、条件の違いによる結果を比べる試験。
対象
—
結果の向き
良い方向

日本の介護施設11か所で、口腔ケアをした人は肺炎・発熱の日数・肺炎による死亡が減っていた。

[7]介護施設の専門的な口腔ケアと口と肺の感染の系統的レビュー

発表年
2023年
研究機関
カナダ・アルバータ大学
掲載誌
Canadian journal of dental hygiene : CJDH = Journal canadien de l'hygiene dentaire : JCHD
研究の種類
システマティックレビュー関連する研究を決まった方法で集め、結果を整理した研究。
対象
研究13件を統合
結果の向き
良い方向

介護施設での専門的な口腔ケアは、肺炎・誤嚥性肺炎の予防に効果があると結論していた(13件)。

[8]毎日の歯みがきと院内肺炎の系統的レビュー

発表年
2024年
研究機関
アメリカ・ハーバード大学医学大学院
掲載誌
JAMA internal medicine
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
10,742人
結果の向き
差なし

入院中の成人を対象にした15件・10742人のメタ解析。人工呼吸器を使わない人では肺炎がはっきり減るとは言えなかった。

[9]オーストラリアの病院での口腔ケアによる院内肺炎予防の試験

発表年
2026年
研究機関
オーストラリア・クイーンズランド工科大学
掲載誌
The Lancet. Infectious diseases
研究の種類
ランダム化比較試験(クラスター)学校や病院などの単位でくじ引きのように分け、結果を比べる試験。
対象
8,870人
結果の向き
良い方向

3病院・8870人で、口腔ケアを強化した病棟では人工呼吸器を使わない人の院内肺炎が減った(ハザード比0.40)。

ほかに参考にした論文(8本)

判定「効かない」は、公開している評価方法に沿ってプログラムが算出しています。