運動すると記憶力は良くなるのか?

運動すると記憶力は良くなるのか?
読了目安 5〜7分最終更新日 2026.11.01
答え効く

良くなります。運動を続けた人は、運動しない人より記憶テストの成績が小さく上がりました。

根拠

運動の試験を集めた系統的レビュー133本(試験2724件・258279人)のまとめで、記憶テストの成績が小さく上がりました [1]。55歳以上では、有酸素運動で出来事の記憶が小さく上がっています [2]。ワーキングメモリ(一時的に覚えておく力)は、続けた運動では小さく上がり、一回だけの運動ではっきりした差がありませんでした [3]。

この答えの範囲

認知症のない大人の話です。上のまとめは子どもも含み、大人より子どもで向上が大きく出ています。若い大人では差が出なかった試験もあります。

じゃあ、どうする?

決まった回数や時間は、まとめからは言えません。研究では、低〜中強度の運動や、1〜3か月続けた運動で効果が大きく出ていました [1]。散歩や自転車など、続けられる運動から始めましょう。

この記事は、成分や方法について公開されている研究を整理したものです。特定の商品の効果を評価したものではなく、個別の診断・治療の助言でもありません。

根拠の確かさ

エビデンス強度研究の種類・数・結果のそろい方から、根拠の確かさを「高い・中程度・低い・限定的」の4段階で示します。高い
根拠の論文判定に使った論文の数です。まとめ論文 (多くの試験を集めたもの) も 1 本と数えます。17 本
研究間の一致研究どうしの結果が、同じ方向にそろっているかを示します。おおむね一致
判定の内訳を見る(スコア 93 / 100)
項目点配点何を見るか
研究デザイン4040いちばん信頼できる研究の種類
研究の量2020研究件数と参加人数
一致度23.225結果の向きがそろっているか
新しさ1010最新の研究が何年以内か
精度05信頼区間が「差なし」をまたがないか

合計 93.2 点を、エビデンス強度 A の範囲(75〜100 点)に収めて、スコアは 93 点です。 判定に使った研究は、ランダム化比較試験 2 本・RCT のメタ解析 5 本。

配点の決まりは 評価方法について に公開しています。計算はプログラムが行い、広告や商品のデータは使いません。

運動で期待されている効果とは

運動は、記憶をつかさどる脳の部分(海馬)を大きくしたり、脳の神経の栄養になるたんぱく質(BDNF)を増やしたりして、記憶力を高めるとされています。ウォーキングなどの有酸素運動、筋力トレーニング、強い運動と休みを交互に繰り返すHIITなど、種類はさまざまです。研究では、数週間から数か月続ける運動と、一度だけの運動を分けて調べるのが特徴です。注意点は、急に激しい運動を始めると体に負担がかかることです。

目次
  1. 01研究でわかったこと
  2. 02注意点
  3. 03まとめ
  4. 04よくある質問
  5. 05参照した論文

01研究でわかったこと

答えの中心は、オーストラリアの南オーストラリア大学などの研究チームが2025年に発表したアンブレラレビューです [1]。アンブレラレビューとは、複数の系統的レビュー(研究結果のまとめ)をさらに集めて見直す方法です。運動のランダム化比較試験(くじ引きで運動する人としない人に分ける試験)を集めた、系統的レビュー133本が対象でした。

研究の種類運動のランダム化比較試験を集めた、系統的レビュー133本のまとめ
対象子どもから高齢者まで、病気のある人も含む(試験2724件・258279人)
比べたもの運動をした場合 / しない場合
結果記憶力のテスト成績が小さく向上(SMD 0.26)
まとめて分析した結果運動を続けると、記憶力のテスト成績が小さく上がりました [1]。

SMDは、異なる尺度の結果をそろえて比べる数値で、「何割か良くなる」という意味ではありません。

差の大きさは、同じ尺度で見ると、小テストなどで思い出す練習をした場合の成績の上がり方(Hedges g 0.499、中くらいの大きさ)より小さくなります [4]。

どんな運動で、どんな記憶に?

  • 有酸素運動と出来事の記憶: 55歳以上の2750人(研究36件)のまとめで、出来事の記憶が小さく向上しました(Hedges g 0.28)[2]。
  • HIIT(強い運動と休みを交互に繰り返す運動)と聞いてすぐの記憶: 運動習慣のない45〜65歳の74人を12週間(約3か月)追った試験で、HIITの群は運動しない群より、テスト成績が良くなりました [5]。
  • 続けた運動とワーキングメモリ(一時的に覚えておく力): 健康な人のランダム化比較試験のまとめで、続けた運動では小さく向上し、一回だけの運動ではっきりした差はありませんでした [3]。

大きなまとめでは、低〜中強度の運動、1〜3か月の短めの運動、体を動かすゲームで効果が大きく出ました [1]。最適な時間と期間は決まっていません。

なぜ効く?

しくみは、研究ではまだ確かめられていません。45〜65歳の74人の試験では、運動による血液中のたんぱく質(S-Klotho)と活性型ビタミンDの変化が、記憶テストの変化と関連していました。研究チームは、これらが運動による記憶の向上に関わっている可能性があると述べています [5]。関連が見られた段階で、原因とは言えません。

年齢による違い

  • 子ども・思春期: 大人や高齢者より向上が大きく出ました [1]。
  • 55歳以上: 研究の平均年齢が55〜68歳のグループでは出来事の記憶の向上が見られ、69〜85歳のグループではっきりしませんでした [2]。
  • 見た物の位置を一時的に覚える力: 子どもと高齢者で効果が確かめられ、若い大人でははっきりしませんでした。このまとめには中高年と10代の研究が入っていません [6]。
差がなかった試験20〜40歳の52人

単語を覚えたあとに10週間、自転車をこぐ運動を続けても、ストレッチと比べて覚えた量や4週間後の記憶に差がありませんでした [7]。

よく言われていることは本当?

  • 運動を習慣にすると記憶力が上がる本当です。 ただし差は小さい部類です(SMD 0.26) [1]。
  • 軽い運動でも、すぐ覚えやすくなる本当です。 覚える前に一度運動すると、あとの記憶テストの成績が少し良くなりました(効果量 d = 0.23)[8]。軽い運動を一度した高齢者で、記憶力のテストが良くなった試験もあります [9]。ワーキングメモリでは、一回だけの運動ではっきりした差が出ていません [3]。
  • 中くらいの強さがいちばん効く根拠は弱いです。 一度の運動のまとめでは、強さ・種類・時間で効果は変わりませんでした [10]。続ける運動では低〜中強度で効果が大きい傾向でしたが [1]、中くらいがいちばんとは言えません。
  • 有酸素運動で海馬(記憶をつかさどる脳の部分)が大きくなる健康な高齢者では確かめられていません。 認知症のない高齢者554人(ランダム化比較試験8件)が有酸素運動を3〜12か月続けても、海馬の大きさに運動しない人との差はありませんでした [11]。海馬が2%大きくなった2011年の試験は120人で、よく紹介されます [12]。
  • BDNF(脳の神経の栄養になるたんぱく質)が出て、神経が育つ血液中のBDNFが増えることは確かめられています。 運動を続けた2,031人(ランダム化比較試験39件)で運動しない人より多く [13]、一度の持久系の運動でも増えました [14]。ただし運動習慣のない高齢者に絞ると差はありません [15]。測ったのは血液中の量で、神経が育つことは確かめられていません。
  • 運動すると認知症を予防できる根拠がはっきりしません。 よく体を動かす人は認知症になる割合が低い関連があります(観察研究58件、相対リスク0.80)[16]。一方、認知症のない高齢者が運動を12か月以上続けた試験(ランダム化比較試験4件)では、はっきりした差が出ていません(確かさは低い)[17]。

02注意点

HIIT試験の対象は、運動習慣のない45〜65歳の74人です [5]。測ったのは記憶テストの成績で、日常の物忘れが減るかは、この研究からは言えません。急に激しい運動を始めると体に負担がかかります。持病がある人や、運動で体調に不安がある人は、医師に相談してから始めてください。

小さな差の話

運動は、記憶力を大きく変える方法ではなく、小さく押し上げる習慣として読むのが正確です。

03まとめ

運動を続けると、記憶テストの成績は小さく上がります。
子どもで大きく、若い大人では差が出なかった試験もあり、年齢で効き方が違います。
まずは低〜中強度の運動を無理なく続け、覚える前や覚えたあとに体を動かすのも試してみましょう。

04よくある質問

Q運動のほかに、記憶力を上げる方法はありますか?

思い出す練習(小テストなど)は、実際の授業での研究222件・48478人のまとめで、読み直しなどより成績が中くらいの大きさで上がりました [[33683913]]。睡眠を3〜6.5時間に削ると、新しく覚える成績が小さく下がる傾向もあります [[39427809]]。勉強法は[暗記には復習とテストのどちらが効果的?](/evidence/memorization-methods)、睡眠は[睡眠の質を高める方法は?](/evidence/sleep-quality-methods)で解説しています。

Q太極拳やヨガでも記憶力は上がりますか?

高齢者のランダム化比較試験12件・1051人のまとめのうち、神経の病気のない高齢者では、記憶力全般の成績が運動しない場合より向上しました。著者は、より大きく追跡の長い試験が必要としています [[32329024]]。

Q覚えたあとや、覚えている最中に運動するのはどうですか?

一度の運動を、覚えたあとに行った場合も、記憶が良くなっていました(d = 0.33)。覚えている最中の運動では差がありませんでした [[42339428]]。

05参照した論文

判定に使った主な論文(18本)

[1]運動が認知機能と記憶に効くかを調べた、系統的レビューのまとめ

発表年
2025年
研究機関
オーストラリア・南オーストラリア大学
掲載誌
British journal of sports medicine
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
258,279人
結果の向き
良い方向

運動の系統的レビュー133本をまとめ、記憶力のテスト成績が小さく向上(SMD 0.26)。子どもで大きく出ました。

[2]有酸素運動が高齢期の出来事の記憶を高めるか

発表年
2022年
研究機関
アメリカ・ピッツバーグ大学
掲載誌
Communications medicine
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
2,750人
結果の向き
良い方向

55歳以上の2750人(研究36件)で、有酸素運動により出来事の記憶が小さく向上(Hedges g 0.28)。

[3]続ける運動と一回だけの運動がワーキングメモリに与える効果

発表年
2017年
研究機関
アメリカ・デイビッドソン大学
掲載誌
Systematic reviews
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
研究15件を統合
結果の向き
良い方向

健康な人の試験で、続ける運動はワーキングメモリを小さく向上させ、一回だけの運動ではっきりした効果はありませんでした。

[4]小テストは授業での学習を後押しするか

発表年
2021年
研究機関
中国・北京師範大学
掲載誌
Psychological bulletin
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
48,478人
結果の向き
良い方向

授業の研究222件・48478人のまとめで、小テストにより成績が中くらいの大きさで上がりました(Hedges g 0.499)。

[5]運動習慣のない中年の記憶に対する運動の効果の試験

発表年
2024年
研究機関
スペイン・グラナダ大学
掲載誌
Scandinavian journal of medicine & science in sports
研究の種類
ランダム化比較試験参加者をくじ引きのように分け、条件の違いによる結果を比べる試験。
対象
74人
結果の向き
良い方向

運動習慣のない45〜65歳の74人で、12週間のHIITをした群は、聞いてすぐの記憶の成績が良くなりました。

[6]健康な人の見て覚える短期の記憶に対する運動の効果

発表年
2023年
研究機関
中国・西南大学
掲載誌
Frontiers in psychology
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
1,595人
結果の向き
良い方向

健康な人1595人(論文21本)で、見た物の位置を覚える力が小さく向上。子どもと高齢者で確かめられました。

[7]若い大人の学習と記憶に対する10週間の有酸素運動の試験

発表年
2023年
研究機関
ドイツ・ハンブルク大学
掲載誌
Biological psychology
研究の種類
ランダム化比較試験参加者をくじ引きのように分け、条件の違いによる結果を比べる試験。
対象
52人
結果の向き
差なし

20〜40歳の52人で、10週間の自転車こぎをしても、ストレッチと比べて覚えた量や4週間後の記憶に差はありませんでした。

[8]覚える前の一度の運動が記憶に与える効果のメタ解析

発表年
2024年
研究機関
アメリカ・ジョージア大学
掲載誌
Frontiers in cognition
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
研究42件を統合
結果の向き
良い方向

42の実験で、覚える前に一度運動すると記憶テストの成績が少し向上(d = 0.23)。覚えている最中の運動では差なし。

[9]健康な高齢者の記憶に対する、軽い運動を一度行った効果の試験

発表年
2024年
研究機関
日本・流通経済大学
掲載誌
Neurobiology of aging
研究の種類
ランダム化比較試験(クロスオーバー)参加者が順番を変えながら複数の条件を体験し、結果を比べる試験。
対象
—
結果の向き
良い方向

健康な高齢者で、軽い運動を一度したあとは、座って休んだときより、よく似たものを見分けて覚えている力のテスト成績が良かった。

[10]一度の運動が頭の働きに与える効果のメタ解析のまとめ

発表年
2025年
研究機関
台湾・国立台湾師範大学
掲載誌
Psychological bulletin
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
18,347人
結果の向き
良い方向

383研究・18,347人のまとめで、一度の運動は頭の働きを少し向上。強さ・種類・時間で効果は変わりませんでした。

[11]健康な高齢者の海馬の大きさに対する有酸素運動の効果

発表年
2024年
研究機関
カナダ・ブリティッシュコロンビア大学
掲載誌
GeroScience
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
554人
結果の向き
差なし

健康な高齢者554人(RCT8件)で、有酸素運動を続けても海馬の大きさに差はなく、体力は上がっていました。

[12]有酸素運動が高齢者の海馬の大きさと記憶に与える効果の試験

発表年
2011年
研究機関
アメリカ・ピッツバーグ大学
掲載誌
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
研究の種類
ランダム化比較試験参加者をくじ引きのように分け、条件の違いによる結果を比べる試験。
対象
120人
結果の向き
良い方向

高齢者120人のRCTで、有酸素運動をした人は海馬が2%大きくなり、空間の記憶も向上しました。

[13]運動を続けたときの血液中BDNFの変化のメタ解析

発表年
2022年
研究機関
中国・華南師範大学
掲載誌
Frontiers in aging neuroscience
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
2,031人
結果の向き
良い方向

運動を続けた2,031人(RCT39件)で、運動しない人より血液中のBDNFが多くなりました。

[14]一度の持久系運動が血液中BDNFに与える効果のメタ解析

発表年
2023年
研究機関
中国・上海体育大学
掲載誌
Biology
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
研究8件を統合
結果の向き
良い方向

神経の病気のない人で、持久系の運動を一度すると血液中のBDNFが増えました(効果量 0.30)。

[15]高齢者の運動と血液中BDNFのメタ解析

発表年
2022年
研究機関
ブラジル・グランデ・ドウラードス大学センター
掲載誌
Biomarkers : biochemical indicators of exposure, response, and susceptibility to chemicals
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
研究10件を統合
結果の向き
差なし

運動習慣のない認知症ではない高齢者では、運動を続けても血液中のBDNFに差はありませんでした。

[16]体を動かす量と認知症の関連を調べた観察研究のメタ解析

発表年
2022年
研究機関
フィンランド・ヘルシンキ大学
掲載誌
British journal of sports medicine
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
257,983人
結果の向き
良い方向

観察研究58件で、よく体を動かす人は認知症になる割合が低く、相対リスクは0.80でした。

[17]高齢者の長期の運動と組み合わせた取り組みで認知機能を調べたメタ解析

発表年
2024年
研究機関
スペイン・ナバラ公立大学
掲載誌
Ageing research reviews
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
11,402人
結果の向き
差なし

運動を12か月以上続けた試験4件で、認知症になる人の割合にはっきりした差はありません(研究の質は低い)。

高齢者の記憶に対する太極拳やヨガなど心身の運動の効果

発表年
2021年
研究機関
中国・上海中医薬大学
掲載誌
Aging clinical and experimental research
研究の種類
システマティックレビュー・メタ解析関連する試験を決まった方法で集め、結果をまとめて分析した研究。
対象
1,051人
結果の向き
良い方向

高齢者の試験12件・1051人のまとめのうち、神経の病気のない高齢者で、記憶力全般の成績が向上(SMD 1.24)。追跡の長い試験が必要です。

ほかに参考にした論文(25本)

判定「効く」は、公開している評価方法に沿ってプログラムが算出しています。