健康情報のエビデンスの見方
「〇〇は体にいい」「研究で証明された」という情報は、毎日のように目にします。けれど、その「研究」がどんな研究で、どのくらい確かなのかまで書かれていることは多くありません。
このページでは、健康情報のエビデンス(根拠)を自分で見分けるための考え方をまとめました。研究の種類と強さ、「関連」と「効果」の違い、信ぴょう性を確かめるチェックリストの順に説明します。
エビデンス(根拠)とは
健康の分野でいうエビデンスとは、「その方法を試した人たちに、実際にどんな変化があったか」を確かめた研究の結果のことです。
大切なのは、エビデンスには強い・弱いがあるということです。同じ「研究で確かめられた」という言葉でも、数人の体験を集めたものと、何千人をくじ引きで分けて比べたものでは、信頼できる度合いがまったく違います。
なお、「この資格を持つ機関が出したものだけがエビデンス」という公的な決まりはありません。エビデンスの強さは、誰が出したかではなく、どう調べたかで決まります。有名な大学の研究でも、人数が少なかったり、比べる相手がいなかったりすれば、根拠としては弱くなります。
研究の種類と根拠の強さ
研究には種類があり、一般に下の表の上に行くほど、結果を信頼しやすいとされています。
| 研究の種類 | どんな研究か | 根拠の強さの目安 |
|---|---|---|
| メタ解析・系統的レビュー | 同じテーマの研究を集め、まとめて分析したもの | とても強い(まとめた研究の質による) |
| ランダム化比較試験(RCT) | 参加者をくじ引きで 2 つに分け、片方だけに試して比べる | 強い |
| コホート研究 | 生活習慣などの違う集団を、長い期間追いかけて比べる | 中くらい |
| 症例対照研究・横断研究 | 病気の人とそうでない人の過去を比べる/ある時点で調べる | 弱め |
| 症例報告・専門家の意見 | 少数の例や、経験にもとづく考え | 弱い |
| 動物実験・試験管内の実験 | マウスや細胞で調べたもの | ヒトへの効果の根拠にはならない |
たとえば「マウスで効果が確認された」成分が、ヒトでも同じように働くとは限りません。動物や細胞の研究は、ヒトで試す前の「手がかり」です。
「関連がある」と「効果がある」は違う
健康情報で特に誤解されやすいのが、この 2 つの違いです。
- 観察研究(コホート研究など)でわかるのは、「Aをしている人には、Bが多い(少ない)」という関連です
- ランダム化比較試験でわかるのは、「Aをすると、Bが変わる」という**効果(原因と結果)**です
たとえば「ある食品をよく食べる人は病気が少ない」という観察研究があっても、その人たちはもともと運動習慣があったり、収入や睡眠の状態が違ったりするかもしれません。食品そのものの効果なのか、ほかの生活習慣の影響なのかは、観察研究だけでは区別できません。
「〜する人は〜のリスクが低い」という記事を見たら、「関連なのか、効果なのか」を一度考えてみてください。
研究が 1 本あるだけでは足りない理由
「研究で効果が出た」という情報が 1 本の研究だけにもとづいている場合は、注意が必要です。
- 偶然の可能性: 参加者が少ない研究は、たまたま差が出ることがあります
- 再現されないことがある: 有名な研究でも、別の研究者が同じ方法で試すと、同じ結果にならないことがあります
- 都合の良い結果だけが目立つ: 「効果があった」研究は発表・紹介されやすく、「効果がなかった」研究は目に触れにくい傾向があります
複数の研究で同じ方向の結果が出ているか、研究をまとめたメタ解析があるかを確かめると、偶然や偏りに振り回されにくくなります。
効果の「大きさ」を見る
「効果があった」とだけ書かれていても、その効果が生活の中で意味のある大きさとは限りません。
研究の世界でいう「統計的に意味のある差(有意差)」は、「偶然とは考えにくい差がある」という意味で、「大きな差がある」という意味ではありません。参加者が多い研究では、ごくわずかな差でも「有意」になります。
たとえば「寝つきが早くなった」という結果でも、それが数十分なのか、1〜2 分なのかで、試す価値は大きく変わります。どのくらい変わったのかという数字を探すことが大切です。
信ぴょう性を確かめる 7 つの質問
健康情報を見たときに、次の 7 つを確かめてみてください。
- 誰が書いているか: 発信者や運営者が明らかで、連絡先があるか
- 出典があるか: 研究や公的機関の資料が、確認できる形で示されているか
- どんな研究か: ヒトの研究か。ランダム化比較試験やメタ解析か、観察研究か
- 何人を調べたか: 参加者の人数や、研究の数が書かれているか
- どのくらい変わったか: 効果の大きさが数字で示されているか
- 反対の結果はないか: 効果がなかった研究にも触れているか
- 売りたいものはないか: 商品の販売や広告と結びついていないか。結びついている場合、それが明示されているか
すべてに当てはまらなくても、すぐに間違いとは限りません。ただ、当てはまらない項目が多いほど、慎重に受け止めたほうがよい情報です。
根拠があるように見える表現に注意
広告や記事には、根拠が強そうに見えて、実は中身がわからない表現があります。
| 表現 | 確かめたいこと |
|---|---|
| 「臨床試験で実証」 | 何人を対象に、何と比べたのか。くじ引きで分けたのか |
| 「〇〇大学との共同研究」 | 研究の結果そのものは公表されているか |
| 「〇〇%の人が実感」 | アンケートや体験談ではないか。比べる相手(何もしなかった人)がいるか |
| 「細胞・マウスで確認」 | ヒトでの研究はあるか |
| 「機能性表示食品」 | 届け出の根拠は事業者が示したもので、国が個別に審査して許可したものではない。根拠の論文は消費者庁の届出データベースで確認できる |
企業の研究の信頼性について
健康食品や薬の研究には、企業が資金を出したり、企業の研究者が行ったりしたものが多くあります。企業の研究だからといって、それだけで信頼できないわけではありません。くじ引きで分けて比べる、参加者にも研究者にもどちらのグループかわからないようにする(二重盲検)など、きちんとした方法で行われ、査読(ほかの研究者による掲載前の確認)のある学術誌に載っていれば、大学の研究と同じように根拠になります。
一方で、知っておきたい点もあります。
- 有利な結果が出やすい傾向: 企業が資金を出した研究は、そうでない研究に比べて、資金を出した側に有利な結果や結論になりやすいことが、研究をまとめた分析(コクランのレビューなど)で報告されています。不正があるという意味ではなく、比べる相手の選び方や結果の示し方、効果がなかった研究が公表されにくいことなどから生じる偏りです
- 論文になっていないデータ: 自社サイトの「試験結果」やプレスリリースだけで、論文として公表されていないデータは、方法を第三者が確かめられません
論文には多くの場合、「資金(Funding)」や「利益相反(Conflict of interest)」の欄があり、誰が資金を出したかが書かれています。気になるときは、その欄と、ほかの研究者の研究でも同じ結果が出ているかを確かめてみてください。
研究を自分で調べるには
研究や公的な情報は、次のようなところで確かめられます。
- PubMed(米国国立医学図書館): 世界の医学論文を検索できるデータベース。英語ですが、要旨(研究の要約)は無料で読めます
- コクラン(Cochrane): 研究をまとめた系統的レビューを公開している国際組織。一部は日本語の要約があります
- 厚生労働省「統合医療」情報発信サイト(eJIM): サプリメントや健康法の有効性・安全性を、一般向けにまとめています
- 消費者庁 機能性表示食品の届出情報: 商品ごとに、届け出られた根拠を確認できます
ただ、論文を 1 本ずつ読んで比べるのは、時間も専門知識も必要です。
エビデンスサーチの使い方
エビデンスサーチは、この「見分け方」を一つひとつの疑問について代わりに行い、結果を同じ形でまとめているサイトです。
- エビデンスの強さ(A〜D): 研究の種類・数・結果の一致度から、決まったルールで機械的に判定しています。判定のしかたは評価方法で公開しています
- 関連か効果か: 観察研究だけにもとづく結論は「関連がある」と表示し、「効果がある」とは書きません
- 効果の大きさ・研究の数・参加人数: すべての研究結果に、数字で示しています
- 情報源: 判定に使う論文データベースと公的機関は情報源で一覧にしています
- 研究の出どころで区別しない: 大学・公的機関・企業のどれが行った研究も、査読のある学術誌に載ったものは同じ基準で判定しています。社内資料やプレスリリースは使いません
- 広告と判定は無関係: 商品の紹介があっても、判定の計算には使っていません
気になる悩みからは悩みから探すで探せます。
よくある質問
Q. 研究で「効果なし」と出たら、まったく意味がないということですか?
A. 「研究で確かめた範囲では、はっきりした差は見つからなかった」という意味です。研究の対象者(年齢・持病など)や量・期間が違えば、結果が変わる可能性は残ります。ただ、根拠の強い研究で効果が見られない方法に、多くのお金や時間をかける必要はないと考えられます。
Q. 根拠が弱い(C・D)方法は、試さないほうがいいですか?
A. 根拠が弱いのは「まだ十分に確かめられていない」という意味で、「効かない」「危ない」という意味ではありません。安全性に問題がなく、費用も負担にならないなら、試すかどうかはご自身で判断して構いません。持病がある方や薬を飲んでいる方は、医師・薬剤師に相談してください。
Q. 新しい研究が出たら、結論は変わりますか?
A. 変わることがあります。研究は積み重なっていくものなので、エビデンスサーチでは公開した判定を定期的に見直し、新しい研究で結論が変わったときは更新しています。